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オレ流。


by Mazzan_tini

車谷長吉 『赤目四十八瀧心中未遂』 (文春文庫) ★★★★

 98年第119回直木賞受賞作。
 直木賞というと読みやすい大衆的な小説が獲るイメージが強いが、こういう純文学的な小説が獲ることは珍しい。まあヤクザ、美女と娯楽的な要素は揃っていて、内容的には十分娯楽小説なのだけれど、文体は好き嫌いが分かれそうで、万人向けの直木賞に選ばれたのは選考委員の英断と言ってよいかもしれない。
 こういう普段とは毛色の違った作品が賞を獲ったということは、それだけこの小説の出来が他を圧倒していたということだろうか。いや実際、中身は相当に面白い。山本なんたらとかいう下手糞とは筆力が圧倒的に異なっている。匂い。車谷長吉の文章には匂いがある。男の匂い。女の匂い。汗の匂い。街の匂い。時代の匂い。そういうものが単語から行間からふつふつと沸き上がってくる。
 ああ、本物の作家だなぁと、読んでいて嬉しくなり、ページを繰る手が期待に満ちる。こういう感覚はちょっとばかりご無沙汰だったかもしれない。筋がどうこうではなく、一文一文が生きている。躍動している。小説というのは、こうでなくてはならぬ。
 また関西弁が小説的世界にマッチしていて実に良い。こういうギラついた情念を描き出すのに、方言というものは実に効果的な働きをする。これが共通語では味気ない。映画や小説で西日本の味わいある方言に触れる度、私は羨望と小さな嫉妬を感じてしまう。
by Mazzan_tini | 2005-09-18 02:49 | 書評