オレ流。


by Mazzan_tini

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 主人公の恋人がある夜、コンビニにリンゴを買いに行ったまま失踪してしまう物語。原田泰造主演で映画化もなされた作品。

 男女の行き違いはよくあることで、それを描いた小説は数多あるものの、一種謎めいた冒頭で読者を物語に引き込んでいく手法は巧い。だが、主人公を始め、我々読者も謎に包まれるとはいっても、この小説はミステリーではない。やはり男女の物語である。ミステリーだと思って読むと多少拍子抜けするかもしれない。

 ただ私は面白いと思いましたよ。ええ。
 主人公の煮え切らなさがなんだかリアル。実際、自分が主人公の立場でも、必死になって彼女を探すかどうか。いや、そうはしないだろう。この冴えない男のように、ああだこうだと考えたり忘れたりしながら、月日を費やしていくに違いない。

 いや、実は私にも非常にシンパシーを抱く経験があるのである。
 もちろん私の彼女は失踪などしなかったし、失踪してもいない彼女の行方を探してみるなんてことをする筈もなかったが、「帰ってくるはずの彼女が帰ってこなかった」経験ならあった。
 当時、彼女は海外に留学中だった。留学するまでに3年以上の月日を共に費やしてきた我々は、その留学でふたりの仲が壊れるなどとは想像もしていなかった。だが、ひょんなことからそれは壊れた。詳述することは避けるが、きっかけはほんの些細なことに過ぎない。ただ、私はその些細なことについてのフォローをしなかった。大したことじゃないと甘く見ていた。しかし、彼女にとって、そのことは私との付き合いを考え直すきっかけになってしまったようだった。

 実際のところ、彼女は「帰って来て」いた。
 日本に帰って来ていたにもかかわらず、2ヶ月近くの間、私と連絡を取ろうとしなかったのだ。ふたりの間にはっきりと「別れよう」というやりとりがあったわけではない。ただ、彼女は、私の元に帰ってこようとはしなかった。いくつもの荷物を、私の部屋に残したまま。
 
 彼女との別れを悔いているわけではない。
 だが、あのとき私が彼女の言葉を真剣に受け止めていたならば。
 いったい我々の仲はどうなっていたのだろうかと思うことがある。戻りたいわけではない。単純にどうなっていただろうと思うだけである。
 そして、この小説の主人公同様、苦しんでいる彼女に手を差し延べなかった己の選択には、おそらく生涯、苦い悔いを抱き続ける。そんな気がしている。
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by Mazzan_tini | 2004-08-30 23:13 | 書評
 今年の本屋大賞受賞ということで、珍しく新刊を購入して読む。

 記憶がきっちり80分しか持たないという症状が実際あるかどうかは知らないが、映画『メメント』を観た人間としては、やや設定に二番煎じを感じてしまう。まあ、記憶障害というテーマは近頃ニュースやドキュメンタリーでもよく目にする話題だから、殊更に『メメント』からアイデアを拝借したというわけではないだろうけど。
 そうは言っても素材そのものは興味深いし、語り口も安定している。全体的に暖かみのある小説で幅広く支持されるのも頷ける。ただ、人物造形といい、話の運びといい、どうにも定型的過ぎる感があり、私はそれほどのめり込めなかった。読者を置き去りにすることを恐れずに、もう少し数学の世界に深く踏み込んでもらったほうが良かったんじゃないかと。
 
 ところで、この小川洋子という著者は阪神ファンなんだろうか。時代背景の1992年という年は、我々阪神ファンにとっては特別な年で、長く続いた低迷期に、突然確変を起こして優勝争いを演じた年である。この小説では阪神の快進撃と絡めて物語が描かれているのだが、正直、「阪神の話を持ち出す必要があるの?」と思ってしまった。江夏の背番号28が完全数であるとかもっともらしく数学と絡めてはいるが、言わせてもらえば、野球のルールもろくに知らんこの博士が江夏に対して熱い思いを抱いていたなんてとても思えない。野球はよく知らんが、選手は好きだなんて女の感覚じゃねえかと。野球ファンを舐めるなと。

 って、別につまらんわけじゃないんだけどね。大賞という肩書の割りにはちょいとばかり物足りないんじゃないのと、そういう話で。
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by Mazzan_tini | 2004-08-12 17:08 | 書評
 上中下全3巻だが、長さはさほど気にならない。司馬遼太郎なんで、すんなり読める。で、やっぱり司馬なんで、それなりに読ませる。面白い。
 武家全盛の時代と言っても、彼らもやはり人の上に立つ身。武骨一辺というよりは、皆それぞれに政治家であったということがよくわかる。豊臣方(石田方)に付くか、徳川方に付くかという各大名たちの心の揺れは想像してみるになかなか興味深い。
 結局のところ、豊臣譜代の大名たちが内部分裂して、ひたすら好機を待っていた家康に軍配が挙がったということなのだろうけれど、時勢を読んだつもりで家康に付いた大名ってのが、逆に徳川政権樹立後には家康から疎まれたというのは何とも皮肉な話。武を捨てて政治に走った者の末路と言えばそれまでだが、裏切り者をしっかり利用しておいて、用が済んだらハイさよならという筋を事も無げにやっちゃう家康って男は実に腹黒い男であることよなあ、うん。
 ただ、司馬遼太郎という人は、個人の嗜好として戦国よりも幕末維新の頃のほうが好きなんじゃないかなと。戦国といえば『国盗り物語』や『巧妙が辻』などでも感じたことだが、これも話の軸にいるはずの石田三成に対する司馬自身の感情移入がほとんど感じられない。『燃えよ剣』なんて、土方への熱い思いがバシバシ伝わってくる作品もあるだけに、三成への醒めた目線が妙に気になったというか寂しかったというか。
 面白さの反面、そうした点での物足りなさも残ったということで評価としては星ふたつ(満点は4つ)ってとこで。
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by Mazzan_tini | 2004-08-11 00:42 | 書評