オレ流。


by Mazzan_tini

佐藤正午 『ジャンプ』 (光文社) ★★★

 主人公の恋人がある夜、コンビニにリンゴを買いに行ったまま失踪してしまう物語。原田泰造主演で映画化もなされた作品。

 男女の行き違いはよくあることで、それを描いた小説は数多あるものの、一種謎めいた冒頭で読者を物語に引き込んでいく手法は巧い。だが、主人公を始め、我々読者も謎に包まれるとはいっても、この小説はミステリーではない。やはり男女の物語である。ミステリーだと思って読むと多少拍子抜けするかもしれない。

 ただ私は面白いと思いましたよ。ええ。
 主人公の煮え切らなさがなんだかリアル。実際、自分が主人公の立場でも、必死になって彼女を探すかどうか。いや、そうはしないだろう。この冴えない男のように、ああだこうだと考えたり忘れたりしながら、月日を費やしていくに違いない。

 いや、実は私にも非常にシンパシーを抱く経験があるのである。
 もちろん私の彼女は失踪などしなかったし、失踪してもいない彼女の行方を探してみるなんてことをする筈もなかったが、「帰ってくるはずの彼女が帰ってこなかった」経験ならあった。
 当時、彼女は海外に留学中だった。留学するまでに3年以上の月日を共に費やしてきた我々は、その留学でふたりの仲が壊れるなどとは想像もしていなかった。だが、ひょんなことからそれは壊れた。詳述することは避けるが、きっかけはほんの些細なことに過ぎない。ただ、私はその些細なことについてのフォローをしなかった。大したことじゃないと甘く見ていた。しかし、彼女にとって、そのことは私との付き合いを考え直すきっかけになってしまったようだった。

 実際のところ、彼女は「帰って来て」いた。
 日本に帰って来ていたにもかかわらず、2ヶ月近くの間、私と連絡を取ろうとしなかったのだ。ふたりの間にはっきりと「別れよう」というやりとりがあったわけではない。ただ、彼女は、私の元に帰ってこようとはしなかった。いくつもの荷物を、私の部屋に残したまま。
 
 彼女との別れを悔いているわけではない。
 だが、あのとき私が彼女の言葉を真剣に受け止めていたならば。
 いったい我々の仲はどうなっていたのだろうかと思うことがある。戻りたいわけではない。単純にどうなっていただろうと思うだけである。
 そして、この小説の主人公同様、苦しんでいる彼女に手を差し延べなかった己の選択には、おそらく生涯、苦い悔いを抱き続ける。そんな気がしている。
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by Mazzan_tini | 2004-08-30 23:13 | 書評